House of Beautiful Business 2021 レポート- “すべての技術者が新しい技術を生み出す前に問うべき10の道徳的な質問とは?”
概要
2021年10月末、mui Lab主催イベントを開催し、京都のmui Labのギャラリー「ebisugawa salone」に集い、心に余白を感じていただくワークショップや、「美しいビジネスとは何か?」、「美しいビジネスを実施する上でのジレンマとブレイクスルーは?」というテーマで対話する機会を設けました。
これは、同時にポルトガルで行われていた世界に美しいビジネスを広めるための活動をする、TEDの体験版のようなシンポジウムである「House of Beautiful Business」のパートナーシップの一環で行われたシグネチャー・イベントです。
House of Beautiful Businessは、2021年、「Concrete Love」をテーマに、リズボンにてリアルに500人以上が集い、数百人がオンライン上に集う4日間の体験を提供しました。その後は約ひと月にわたり、多様な領域の専門家が集い、登壇、議論を繰り広げ、主に2022年以降のテクノロジーとの関係とそれによる人類の変化について探究していきました。
議論の中で生まれたのは、テクノロジーを実装する際に設けるべき10個の道徳的な問い。
ある登壇者の対話では、どのような問題にも解決策があるとする問題解決主義(ソリューショニズム)ではなく、一人一人の謙虚さが求められました。
近年は「パーパス経営」が注目され、企業の社会的存在意義を見直す傾向が広がっています。これまでの定説を覆すような、「利益を生み出す」と「社会を良くすることは両立できる」というパラダイムシフトが起きています。そういった時代の潮流にあり、世界のあらゆる領域の牽引者が集い、人間の存在意義から組織の存在意義、ビジネスの目的について深い対話を行うことで、2022年以降を型作る様々な洞察を得ることを目的に行われました。
以下にイベントの総括まとめましたので、ご高覧いただけましたら幸いです。
House of Beautiful Business2021年のテーマは「Concrete Love」
進歩とは大胆な抽象概念を元に生まれるものですが、それは日々の生活の中での経験の賜物とも言えます。コロナ禍や気候変動など先の見えない時代にあっても、どんな時も愛を持って向き合えば答えは自ずと見つかることを知った人も多いのではないでしょうか。今年のシンポジウムは、2022年以降も大きな夢を描き、新しい職場、新しい自分、新しい世界をつくるための種を見つけることを目的に開催されました。
ここからは、ひと月にわたるHouse of Beautiful Business のシグネチャーイベント「Concrete Love」のサマリーをご紹介します。
テクノロジーの潮流として、現在、世界的に監視技術が人々の暮らしに浸透していますが、それらは大きな危険性と誘惑性を孕んでおり、様々な疑問を引き起こします。 「倫理的に優れたインターネットというのは未だ実現可能なのか?」、「Web 3.0は何を約束してくれるのか?」、「一般消費者には状況を良くする力があるのか?」
HoBBには多様なスピーカーが集い、今後訪れる様々な新領域における行動主義と消費活動の現実性を探りました。ベルリン工科大学のジェス・デ・ジーザス・デ・ピーニョ・ピンハル(Jess de Jesus de Pinho Pinhal)准研究員は、「インターセクショナルな(交差性のある) AIを実現するには、誰がエンド・ツー・エンドのプロセスに関与し意思決定を行うべきか?といった社会的規範を問い直し、再構築することから始める必要がある。」と主張しました。「メタバースのゴッドマザー」と呼ばれるキャシー・ハックル(Cathy Hackl)氏は、メタバースは人々に様々なアイデンティティを試す遊び心を与え、より自由な方法で経験と娯楽を提供するものだと楽観的に語りました。また、ニューヨーク在住のアーティスト、ジョナサン・ローゼン(Jonathan Rosen)は、ロックスターになるという夢を捨ててNFTの言語制作アーティストになった経緯を語りました。その後、参加者には「Beautiful _____」と「_____ Love」に関する投稿で、Concrete Love NFTに貢献いただきました。(投稿者はOpenSea経由で2021年末まで無料で請求することができます。)
そして、このバラ色に見える景色に挑戦するように、バイヨ・アコモラフェ(Bayo Akomolafe)とチャールズ・アイゼンシュタイン(Charles Eisenstein)は哲学、政治、ディープエコロジーを横断する対話を繰り広げ、どのような問題にも解決策があるとする問題解決主義(ソリューショニズム)ではなく、一人一人の謙虚さが必要であることを強調しました。組織やビジネス、究極的には我々が創造するテクノロジーにエコロジー的性質を見出した時、個人レベル、そして集団レベルでどのような自由や解放があり得るのか?という疑問を投げかけました。
他の挑発的な講演では、杉山昌弘氏が気候変動の影響を緩和するための解決策としてソーラージオエンジニアリングを提唱しました。これはリスクがゼロではなく議論の余地がありますが、自然システムに介入する最良の最終手段としてこの手法を主張しました。
最終的にどのような道を選ぶにせよ、技術倫理をめぐる会話を、より活発に、より情熱的にする必要があるという圧倒的な総意一致のもと、多くの人々がその挑戦に挑みました。その一つに、HoBBのメンバー達が自主的に集まり、”すべての技術者が新しい技術を生み出す前に問うべき10の道徳的な質問(とその答え)”を話し合いました。その一部をご紹介します。
- 「私の開発した技術が悪意を持って運用された時にどのような最悪の事態を想像しうるか?」
- 「その技術によって苦しみを被る人やそういった事態を避けるためには、全てが相互に繋がっているという意識を技術に組み込んでいく必要があるのではないか?それはどの程度の範囲で希求されるべきか?」
彼らが提起した質問は、デジタルフロンティアで製品を作ることに伴う責任の大きさを思い起こさせるものでした。
House of Beautiful Business Kyoto Chamber 2021について
2021年は、HoBBのグローバルパートナーとして2回目のイベントを開催しました。京都のmui Labのギャラリー「Ebisugawa Salone」で行ったローカルイベントでは、現代版の『無為自然』な形をお伝えする機会となり、グローバルに向けては、Wired Japan編集長の松島氏とのトークセッションをサステナビリティの観点で配信しました。そこでは、京都の自然資源である鴨川という共有資産「コモンズ」の存在意義とコモンズ的な視点でのデジタルテクノジーのあり方について対話がなされました。
- 無為自然であるとは – お茶体験〜詩作〜対話 “美しいビジネスとは” を通じて見立てる 1 day イベント
- 対話 – Wired 日本版編集長 松島倫明 x mui Lab「鴨川をヒントにデジタルテクノロジーと人間の関係性を考える」
House of Beautiful Businessとは
2017年からスタートしたHouse of Beautiful Business(省略:HoBB)。一年を通じて世界各地でオフライン、オンラインにてセッションが繰り広げられます。そしてクロージングの11月には世界中から500人ほどのHoBBに所属するメンバーがポルトガルのリスボンに集い、旧銀行や旧美術館などの伝統建築に集合して4日間にわたりプレゼンテーション、ダイアログ、ワークショップ、パフォーマンス、パーティーなどを繰り広げ、新たな時代を形作る洞察を持ち帰ります。
このシグネチャーイベントの醍醐味は、世界中の多様な領域を牽引するリーダーに出会い、議論し、それぞれの領域で生かせる糧を得ることです。2020年はコロナのため、オンライン開催がメインとなり、世界の35か国以上がローカルハブとして参加しそれぞれのイベントを開催しました。
House of Beautiful Business 2020
House of Beautiful Business Kyoto Chamber 2020のテーマは、「Great Wave」。コロナ禍の混乱の中、新たな潮流をかたづくるための議論をしました。
House of Beautiful Business Kyoto Chamber 2020
mui Labは、日本で唯一、京都ハブとして参加してローカルイベントをmui Labのギャラリー、ebisugawa saloneで開催、グローバルコミュニティに向けては、SONYのクリエイティブセンター・チーフアートディレクターの田幸 宏崇(たこう・ひろたか)氏とのトークセッションを配信しました。
- 2020年のKyoto hub – mui lab 1 day イベントレポート「テクノロジーの佇まい – 日本的Calm Technology & Design @The Great Wave by House of Beautiful Business」
- グローバルトークセッション動画: